「地震のニュースで見る同じ震度でも、ビルによって揺れ方がまったく違う」——そう感じたことはないでしょうか。実は、地震の揺れの強さだけでなく、建物ごとの「揺れやすさ」が被害の大きさを左右します。本記事では、その鍵となる「固有周期」と「共振」という考え方を、専門知識がない方にもわかりやすく解説します。
長周期地震動による被害の全体像や事例については、前回の記事【長周期地震動とは?離れた場所でも危険な理由と今すぐできる対策】もあわせてご覧ください。
建物には、それぞれ揺らされたときに動きやすい「固有周期」と呼ばれる特性があります。固有周期とは、建物が振動を始めてから、元の位置に戻るまでの1サイクルにかかる時間のことです。この時間は建物の高さや硬さ、重さなどの構造的な特徴によって決まります。
一般的に、建物が高くなるほど固有周期は長くなる傾向があります。気象庁も、建物の高さと固有周期には関係があり、高層の建物ほど固有周期が長くなる傾向があると説明しています。地震はさまざまな周期の揺れを含んでいるため、低層の建物は比較的短い周期の揺れに強く反応し、背の高い柔軟な建物は長い周期の揺れに反応しやすい、という違いが生まれます。もちろん、すべての高層ビルがまったく同じように反応するわけではなく、建物ごとの構造によって個別の特性があります。ただし、高さと固有周期の一般的な関係は、長周期地震動を理解するうえでの基本になります。

「共振」とは、ある力が繰り返し、その対象物の固有周期に近いタイミングで加わり続けたときに、揺れがだんだん大きくなっていく現象のことです。身近な例では、ギターやバイオリンの弦が、特定の音に反応して振動する現象がこれに近いといえます。ある音の周波数が弦の固有の振動と一致すると、弦は大きく振動し始めます。地震の揺れも同じような性質を持っており、地震の揺れに建物の固有周期に近い成分が多く含まれているとき、建物はより強く反応することがあります。

気象庁も、地震動の周期が建物の固有周期に近い場合、建物が共振し、より大きく揺れることがあると説明しています。これが、同じ地震でも建物ごとに揺れ方が大きく異なる理由のひとつです。
「共振」という言葉には、どこか不安をあおるような響きがあるかもしれません。しかし、共振が起きたからといって、建物が必ず倒壊するわけではありません。現在の建物は地震時の挙動を考慮して設計されており、構造の安全性と、建物内部の什器・設備の動きは、切り分けて考える必要がある別の問題です。建物自体は構造的に安全な状態を保ちながら、内部の家具や什器が大きく動いてしまう、ということは十分に起こり得ます。
家具が移動する、キャビネットが転倒する、什器が滑落する、天井材や内装の一部が損傷する、エレベーターが停止する、人が歩行やその場に立っていることが難しくなる——気象庁の長周期地震動階級は、こうした人の行動の困難さや、家具・什器の移動・転倒といった影響をもとに、揺れの強さを表す指標として設けられています。建物を守ることと、建物の中身を守ることは、関連はしていますが、同じ対策では解決できない、それぞれ別の課題だといえます。

高層ビルの中でも、すべての階が同じように揺れるわけではありません。一般的に、上層階のほうが下層階よりも大きく揺れる傾向があります。気象庁も、長周期地震動が発生した際、高層ビルの上層階のほうがより強い揺れを経験する傾向があると述べています。
これは、オフィスや店舗などを運営するうえで重要な意味を持ちます。低層階では安定して見えるキャビネットであっても、同じ什器を高層階に置いた場合には、より大きな揺れにさらされる可能性があるのです。オフィス家具だけでなく、研究用の機器や保管用什器なども同様です。リスクの大きさは、什器の重さだけで決まるものではありません。高さや形状、重心の位置、床への固定方法、周囲の空間といった要素も、あわせて考える必要があります。

さらに、長周期地震動の特徴として、揺れが一度で終わらず、繰り返し続く点も見逃せません。短時間で終わる揺れであれば、什器は一度動いても大きくは変わらないかもしれません。しかし、揺れが数分にわたって繰り返されると、什器は少しずつ位置を変えながら、最終的に大きく移動したり転倒したりすることがあります。人にとっても、長く続く揺れの中でバランスを保ち続けることは容易ではありません。企業にとっては、揺れが収まった後も、什器や設備の点検、通路の確認、エレベーターの安全確認などに時間がかかり、その間の業務再開が遅れる可能性もあります。
ここで気になるのが、「低層階と高層階で、地震対策の考え方は同じでよいのか」という点です。結論から言うと、同じ対策で十分な場合もあれば、階によって見直しが必要な場合もあります。什器の重さや形状、固定方法が同じであっても、低層階では大きな問題にならなかった揺れが、高層階では什器の移動や転倒につながることがあります。とくに、上層階に重要な設備や人が集まりやすい会議室・受付などがある場合は、その階の揺れやすさを踏まえたうえで、什器の配置や固定方法を個別に検討することが望ましいといえます。フロアごとに一律の対策を当てはめるのではなく、「その階でどのような揺れが想定されるか」を踏まえて優先順位をつけることが、実務的な進め方になります

こうした固有周期や共振の考え方を理解しておくと、自社の建物についても具体的に考えやすくなります。もし自社ビルの固有周期がわかれば、どのような周期の地震動に対してとくに注意が必要かを把握する手がかりになります。固有周期は、建物の構造計算資料や、建物管理会社を通じて確認できる場合があります。すべての企業がすぐに固有周期を把握できるわけではありませんが、「自社の建物は高層階にあるか」「什器や設備はどのように固定されているか」といった基本的な確認だけでも、対策を検討する第一歩になります。
固有周期と共振の関係は、専門的な工学の話に聞こえるかもしれません。しかし、その実務的な意味はシンプルです。建物にはそれぞれ固有周期があり、地震動にはさまざまな周期が含まれています。両者が近づくと、建物の揺れは大きくなります。高層ビルは一般的に固有周期が長く、上層階ほど強く揺れる傾向があります。そして、揺れが長く続くことは、家具や什器、そして人に影響を及ぼします。この関係を理解しておくことで、「自社ビルは地震に強いか」だけでなく、「自社の設備のうち、とくに動きやすい場所はどこか、動いた場合に何が起こるか」という、より具体的な問いを立てられるようになります。
長周期地震動と共振の仕組みを理解することは、揺れの大きさを正確に予測するためだけではありません。同じ地震でも、建物によってなぜこれほど異なる結果になるのかを理解し、自社に合った対策を考えるための土台になります。「共振」や「固有周期」という言葉は難しく感じても、要点はシンプルです。建物の揺れやすさは高さや構造によって異なり、高層階ほど揺れが大きくなりやすいという事実を知っておくことが、適切な対策への第一歩になります。
自社の什器・設備がどのように固定されているか、まだ確認できていない場合は、この機会に一度見直してみてはいかがでしょうか。長周期地震動による被害の実例や、費用対効果を踏まえた対策の考え方については、前回の記事【長周期地震動とは?離れた場所でも危険な理由と今すぐできる対策】で詳しく解説しています。

長周期地震動への備えとして、什器や設備の転倒・移動を防ぐ方法のひとつに、壁や床への穴あけが不要なアンカーレス耐震工法があります。工事不要で導入しやすく、レイアウト変更の多いオフィスにも対応可能です。詳しい特徴や導入事例については、製品ページをご覧いただくか、お気軽にお問い合わせください。

